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福岡高等裁判所 平成6年(ラ)201号 決定 1994年10月27日

抗告人

堀田寛次

右代理人弁護士

阿部明男

相手方

協同組合北銀

右代表者代表理事

竹中義雄

主文

一  本件執行抗告を却下する。

二  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  抗告人の抗告の趣旨及び理由は、別紙執行抗告状記載のとおりであって、要するに、抗告人は本件電話加入権差押え及び換価命令(原決定)の基本となった質権設定契約を締結したことがないから、原決定の取消しを求めるというものである。

二 当裁判所は、右のような担保権の不存在又は消滅といった実体上の事由を理由とする原決定に対する不服申立ては執行異議の方法でなされるべきもので、執行抗告の方法によることは許されないものと解する。

すなわち、確かに民事執行法(以下「法」という。)は、債権及びその他の財産権についての担保権の実行について、法一九三条二項で、法一四五条五項、及び一八二条を準用しており、不服申立ての方法として執行抗告で、担保権の不存在又は消滅といった実体上の事由をも主張させる趣旨とも解されるが、この見解は次の理由から採用できない。

なぜならば、そのような解釈は、文理上相当無理な読み替えを必要とするし、本来、執行抗告は、その濫用を防ぐため、限定された場合にだけ、期間を限定して認められているもので(法一〇条)、これで担保権の不存在又は消滅といった実体上の事由をも主張させることは、法の趣旨に必ずしもそぐわない上、仮に執行抗告でしかこのような主張を許さないことにすれば、執行抗告にはその申立て期間として一週間の不変期間しか与えられていない(法一〇条二項)ことから、不服申立人に耐えがたい不利益を与えることにもなるからである。むしろ、法一九三条二項が、法一四五条五項、及び一八二条を準用しているのは、不服申立ての方法として、執行抗告と執行異議との両方を予定してはいるが、それは、同じ理由で両方法が許されるのではなく、執行抗告では執行裁判所が自ら調査し、遵守すべきいわば手続き上の瑕疵を理由として、執行異議は実体上の事由を理由として、それぞれ不服申立てをすることを予定していると解するのが相当である。また、このように解することは、不動産に対する担保権の実行の場合とも整合性があり、より合理性があるものというべきである。

三  よって、本件執行抗告は不適法であるから、これを却下し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官足立昭二 裁判官有吉一郎 裁判官奥田正昭)

執行抗告状

抗告人(質権設定者) 堀田寛次

代理人弁護士 阿部明男

福岡地方裁判所小倉支部平成六年(ナ)第四六二号、(ヲ)第五二七号電話加入権差押及び換価命令申立事件について、抗告人は次のとおり執行抗告をする。

平成六年九月五日

抗告人代理人弁護士 阿部明男

福岡高等裁判所御中

第一 抗告の趣旨

福岡地方裁判所小倉支部が平成六年八月二四日にした電話加入権の差押え及び換価命令は取り消す。

との裁判を求める。

第二 抗告の理由

一 福岡地方裁判所小倉支部は、債権者協同組合北銀の申立により平成六年八月二四日本件電話加入権について差押え及び換価命令をなした。

二 しかしながら、右差押え命令の基本となった質権については抗告人は、債権者との間で質権設定契約をした事実はない。

また抗告人が債務者有限会社タケナカより五万円を借り受けた事実もない。

抗告人不知の間に何人かが抗告人の名を冒用し、実印および印鑑証明書を使用して、本件質権設定契約(甲一)をはじめとして、国内信販株式会社との間でカード入会申込み(甲二)をし、福岡銀行北九州支店との間で普通預金口座を開設する(甲三)などをしていることが平成六年六月になって判明した。

抗告人は、方々調査をしたが如何なる人物がこのようなことをしたのかを未だ突き止めるにいたっていない(甲四)。

抗告人の自署は、甲二の三、甲三の三であり、これに対して甲一、甲二の一、甲三の一、二の筆跡はすべて同一であり、かつ抗告人の筆跡とは明らかに異なっている。

三 これらの点からみて、本件質権設定契約が抗告人の関知しないところで氏名不詳者によってなされたものであることが明らかである。

しかるに、原裁判所はこれを看過して、本件差押え命令をしたものであるから違法であり、取り消されるべきものである。

四 よって、申立の趣旨記載の裁判を求める。

附属書類

甲一ないし四号証

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